12月20日19時2分配信 毎日新聞
【ブリュッセル福原直樹、ウィーン中尾卓司】ポーランド、ハンガリーなど旧東欧諸国を中心とする9カ国が21日、欧州における国境の撤廃を目指す「シェンゲン協定」に加盟する。国境での出入国審査がなくなり、冷戦時代に「鉄のカーテン」で隔てられた旧東欧から、旅券を持たずに旧西欧に旅行ができるようになる。これにより、協定加盟国は24カ国に拡大するが、犯罪増加への懸念も強い。
シェンゲン協定は85年にフランス、ドイツ、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクの5カ国が締結。旧東欧諸国など10カ国が04年に欧州連合(EU)に加盟したのを機に今回の拡大が決まった。9カ国の加盟により、協定が適用される地域は面積360万平方キロ(人口4億人)となる。
21日には新規加盟国との間で陸路・海路での出入国審査が廃止され、来年3月30日からは空港での審査もなくなる予定。日本人などの外国人旅行客もいったんシェンゲン協定地域に入れば旅券を提示せずに移動できる。
EUの内閣にあたる欧州委員会のバローゾ委員長は旧東欧諸国のシェンゲン協定加盟を「欧州和解の象徴であり、偉大な成果だ」と評価した。20日には新規加盟4カ国に囲まれるオーストリアの国境付近などで記念式典が開かれた。
オーストリア・スロバキア国境の会場には「国境なしにメリークリスマス」と大書された幕が掲げられ、両国政府首脳ら約300人が「自由往来時代」の実現を歓迎した。オーストリアのグーゼンバウアー首相は「拡大は犯罪と不安定さでなく、平和と安定を意味する」と力説、スロバキアのフィツォ首相は「歴史的な日だ。スロバキアはEU全体の境界の警戒に責任を果たしたい」と語った。
今後、各国はEUの犯罪データなどを利用し、国境を越えた犯罪摘発にあたる。だが、オーストリアでは、民間調査会社の世論調査に国民の75%が「シェンゲン協定の拡大で犯罪が増える」と答えるなど、反発も強い。
◇シェンゲン協定
国境や空港での旅券審査をなくし、加盟国間を自由に移動できるようにする協定。当初の5カ国に、スペインとポルトガルが加わった95年に発効。順次、加盟国が増え、現加盟国数は15カ国。EUに加盟する27カ国のうち英国、アイルランド、ルーマニア、ブルガリア、キプロスは協定に参加していない。スイスとリヒテンシュタインは来年11月に協定に加盟する見通し。
▽現加盟国
ポルトガル、スペイン、フランス、イタリア、ベルギー、ルクセンブルク、オランダ、ドイツ、オーストリア、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、ギリシャ(以上EU)、ノルウェー、アイスランド(非EU)
▽新規加盟国
チェコ、エストニア、ハンガリー、リトアニア、ラトビア、マルタ、ポーランド、スロバキア、スロベニア(すべてEU)