12月13日14時5分配信 産経新聞
■日本発「着メロ文化」が浸透
南米の暴れん坊、ベネズエラのチャベス大統領が国際会議の場で罵詈雑言を吐いて、スペインのフアン・カルロス国王に「黙りなさい」と一喝され、その一言が携帯電話の着信メロディーとして両国を中心に大ヒットした。この現象、日本発“着メロ文化”の意外な海外浸透ぶり、そして、ベネズエラでの反チャベス感情の予想外の強さも物語っている。さらにいえば、チャベス氏が、無制限の大統領多選を可能にする憲法改正の是非を2日の国民投票に問うて敗れた、予兆でもあったのかもしれない。
(外信部 宮下日出男)
事の起こりは、11月10日に中南米諸国と旧宗主国スペイン、ポルトガルの首脳がチリに集った「イベロアメリカ首脳会議」から。
かつてブッシュ米大統領を「悪魔」とののしったチャベス大統領が、今度はブッシュ氏の盟友だったスペインのアスナール前首相を「ファシスト」呼ばわりして、「ファシストは人間じゃない。ヘビの方が人間らしい」とこき下ろした。
サパテロ同国首相が「前首相は民主的に選ばれた正統な国民の代表」と反論、収まらないチャベス大統領がマイクが切られているにもかかわらず声を荒らげたところ、首相の横の国王が堪忍袋の緒が切れた様子で身を乗り出して発言した。
「ポルケ・ノ・テ・カジャス」(スペイン語で「黙りなさい」という意味)
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やり取りは大きな反響を呼び、動画投稿サイト「ユーチューブ」には多数のビデオが流され、スペインやベネズエラでは「黙りなさい」の文字をあしらったTシャツやマグカップが登場した。極めつけが「黙りなさい」の着メロである。
BBCなどによると、着メロはスペインで約50万人がダウンロード、配信会社の収入は約150万ユーロ(約2億4400万円)に上って、「国王が肖像権を主張したら、ちょっとしたいい稼ぎでは」と英紙ガーディアンが気を回したほど。もっとも、配信会社は国王とは別の声で言葉を再現し、肖像権の侵害を回避した。
着メロはベネズエラにも広がり、反チャベス派の学生たちが競ってダウンロードし、ある学生は「国王は長い間、国民が言いたかったことを言ってくれた」と意気揚々と語ったという。
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iモードが1999年に先駆的な携帯電話のインターネット接続サービスとして始まり、着メロや写メールなどコンテンツの分野でも日本は世界に先駆けた。
野村総研主任コンサルタントの小林慎和さんによると、欧州で携帯向けコンテンツのサービスが始まったのが2001~03年で、利用率はまだ低いという。しかし、今ではサービス内容は日本とほぼ変わらず、市場規模も、西欧10カ国だと推計3000~6000億円となり、日本(約3800億円)をしのいでいる。
着メロを開発、海外でも事業展開する「フェイス」の話では、欧州などでは街中で携帯電話を操作する光景は見られず、その多機能・高性能化の必要性に議論もある。ただ、情報量が少なく、比較的手軽な着メロでは、流行の音楽などを取り込むユーザーがジワリと増えてきているという。